Contact

Link and Publish your data

to the Linked Open Data Community

Linkdata Work Information

壽賀多百人一首小倉錦(国文学研究資料館所蔵)

国文学研究資料館所蔵の「壽賀多百人一首小倉錦」の画像へのリンクと翻刻をデータ化しています。画像の利用については、国文学研究資料館の利用条件 ( http://base1.nijl.ac.jp/~tkoten/opendata.html )に従ってください。 翻刻データは「みんなで翻刻」(https://honkoku.org/)で翻刻されたテキストを利用しています。
2

value

useful
1
Loading...



Select a file name to see the detais.
   
#LINK
#lang ja
#attribution_name Nanako Takahashi
#license http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja
#file_name nijl_sugata_iiif
#download_from http://linkdata.org/work/rdf1s8474i
#namespace dc http://purl.org/dc/terms/
#namespace dcterms http://purl.org/dc/elements/1.1/
#namespace karuta https://github.com/tnanako/karutalod#
#namespace rdfs http://www.w3.org/2000/01/rdf-schema#
#namespace schema http://schema.org/
#property karuta:text dc:creator karuta:annotates schema:image karuta:references dcterms:isPartOf
#object_type_xsd string string string string string string
#property_context Assertion Assertion Assertion Assertion Assertion Assertion
nijl_sugata_001 秋(あき)の田(た)の苅穂(かりほ)の庵(いほ)の苫(とま)をあらみ我衣(わがころも)手(で)は露(つゆ)にぬれつゝ 天智天皇(てんぢてんわう) 此哥の心は秋の田に庵(いほり)たつるころ秋のすへになりゆきとまなども朽(くち)そんじて露(つゆ)をふせぐ便(たよ)りもなくて我(わが)そでのぬるゝよし也王道(わうだう)御じゆつくわいの御哥にて定家(ていか)百首の始(はじめ)にえらび入れられしは民(たみ)をあはれみ給ふ御心を尊(たつと)びて也かりほは仮(かり)の庵也万葉(まんよう)に借(かり)庵(ほ)と書り御説(せつ)と云々〇季吟(きぎん)の注(ちう)に曰万乗(ばんでう)の主(あるじ)として民をあはれみ給ふは聖主(せいしゆ)賢王(けんわう)の事也と殊(こと)に田夫(でんぶ)のわざをつぶさにおほしめし入れられしていなり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000003.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/3/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_002 春過(はるすぎ)て夏(なつ)来(き)にけらし白妙(しろたへ)の衣(ころも)ほすてふ天(あま)のかぐ山(やま) 持統天皇(ぢとうてんわう) 是は卯月朔日衣(ころも)かへの御哥也春(はる)三月はかすみたる山のけふははやはれて雲(くも)の白々とさながら夏衣(なつぎぬ)をもほしたるごとくに見ゆること也むかし此山に天人衣(ころも)をかけほしたることあるゆへかぐ山とはよめり新古今(しんこきん)には夏の部(ぶ)の巻頭(くわんとう)に入れたりいせ物がたりには露(つゆ)とこたへてさへなましものをといふにつきてあいじやうの部(ぶ)に入れたりいづれもよく見て入れたり〇季注(きちう)に曰(いはく)たゞ夏といはずして春(はる)すぎて夏来(なつき)といへば首夏(しゆか)の次(し)第(だい)あきらか也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000004.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/4/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_003 あし曳(びき)のやまどりのをのしだり尾(を)のなが〳〵し夜(よ)をひとりかもねん 柿本人麿(かきのもとのひとまろ) 此哥の心はあしびきとは山をいはんため又山とりの尾(を)はなが〴〵しなどいはんための枕(まくら)ことば也秋(あき)の夜(よ)のなかきに二人りねてさへうかるべきにひとりはえこそねられまじきと也別(べつ)なる義(ぎ)などはさらになし只(たゞ)あし引のとうち出したるにより山どりのをのといひて長〳〵しよをといへるさまかぎりなきふぜいもつとも丈(たけ)たかし〇季注(きちう)に曰たゞ長(なが)きよといふよりもなが〳〵しよといふにてひとりねのわびしさせんかたなくきこゆ https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000004.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/4/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_004 田子(たご)のうらにうち出(いで)てみれば白妙(しろたへ)の冨士(ふじ)の高(たか)ねにゆきはふりつゝ 山辺赤人(やまべのあかひと) 此哥の心は田子のうらに舟(ふね)さし出てかへりみるに冨士(ふじ)の山もはへ眺望(てうぼう)かぎりなくして心ことばもおよばぬに高根に雪(ゆき)さへ見たる心に思ひ入てぎんみすべし余情(よせい)かぎりなしさればこそ赤人をば古今(こきん)にも哥にあやしく妙也といへり〇季注に曰田子のうらに出てふじの高ねを見つるけしき言説(ごんせつ)におよぶ所ならねば其ていばかりをいひて風致(ふうち)おのづからこもれりされば此哥の心をことわるも又舌頭(せつとう)のおよぶ所あらず https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000005.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/5/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_005 奥山(おくやま)にもみぢ踏(ふみ)わけなく鹿(しか)のこゑきくときぞ秋(あき)はかなしき 猿丸太夫(さるまるたいふ) 此哥の心は秋(あき)ははじめよりあはれなるものとは申せども草(くさ)の花(はな)さきみだれ露(つゆ)も月もおもしろくよろづの虫(むし)のねもをかしかるべし秋のすへになりてはそのけしきもつきはておち葉(ば)ものすごきに鹿(しか)のつまこひかねてなくじせつこそじつに秋はかなしきと也おく山にといへる五もじ又かんじん也元(もと)の抄(せう)には端(は)山のもみぢちりて次第(しだい)に秋のいつの時かなしきといへはしかのうちわびてなく時の秋が至(いたつ)てかなしきといふ義也とあり此秋は世間(せけん)の秋なり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000005.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/5/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_006 鵲(かさゝぎ)のわたせるはしにおく霜(しも)のしろきを見(み)れば夜(よ)ぞ更(ふけ)にける 中納言家持(ちうなごんやかもち) 此哥はらうゑいに月おちからすなきて霜(しも)天にみつといへる詩(し)の心也家持(やかもち)あん夜(や)にあふて月もなくさへたる天にむかひて吟(きん)じ思へる也霜天にみちたるとて目前(もくぜん)にふりたるにはあらず晴夜(せいや)の寒天(かんてん)さながら霜のみちたると見ゆるてい也これは御説(せつ)也かさゝぎはからすのことにて七夕の夜(よ)からすはねをならべて二(じ)星(せい)をわたすこれをかさゝぎのはしといふ也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000006.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/6/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_007 天(あま)の原(はら)ふりさけ見(み)れば春(かす)日(が)なるみかさの山(やま)にいでし月(つき)かも 安倍仲麿(あべのなかまろ) 此哥はもろこしにて月を見てよめる也むかし仲まろもろこしへまゐりてかへる時わが国を思ひやり又すみなれたる旅居(たびゐ)のなごりも思ひつゞけかの国のみなとよりはれわたりたる月を見て日の本(もと)のならのみやこなる三かさの山に出し月と同(おな)じ心にうかみかのくに此国のへだてなくたんてきの思ひをなしあはれもふかく余(よ)情(せい)かぎりなきてい也此とき唐人(からびと)のおくりしといふはなむけの詩(し)などもある也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000006.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/6/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_008 我庵(わがいほ)はみやこのたつみしかぞすむ世(よ)をうぢ山(やま)と人(ひと)はいふなり 喜撰法師(きせんほつし) 此哥の心はきせんほつし都(みやこ)の辰巳(たつみ)なる宇治(うぢ)山にいほりをしめて住(すめ)るに人は世(よ)をうぢ山といへどもわれはたのしみてかくのごとく心よくすめると也みやこのたつみとは方角(ほうがく)をことわる也古今(こきん)の序(じよ)にはじめをはりたしかならずといへるはよをうぢ山と人はいへどもといふべきを人はいふなりといへる所をさしていへり又秋の月を見るにあかつきの雲(くも)にあへるがごとしとはいかにものこりをしきといふ心なるべし https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000007.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/7/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_009 花(はな)の色(いろ)はうづ【別刷は「つ」】りにけりないたづらに我身(わがみ)よにふるながめせしまに 小野小町(をのゝこまち) 此哥はわか身の世(よ)にふる老い(おひ)をかんじ花(はな)によそへて思ひをいひのへたり小町が古今にて第(たい)一の歌とすかの集に後(のち)に入れたる哥也此哥にうらおもての説(せつ)あり表(おもて)は花のさきたらば花に身(み)をなさんと思ひしも世(よ)にすめはことしけくてとやかくやうちまぎれ過たる花也見ぬ花なれうつりにけりなと察(さつ)していふ也裏(うら)の説(せつ)は身(み)のおとろへもわれとはしらぬものなり只(たゝ)花のおとろへを見てわが身もかくうつりてこそあらめとおもひやる義(ぎ)也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000007.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/7/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_010 是(これ)や此(この)ゆくもかへるも別(わか)れてはしるも知(し)らぬもあふさかの関(せき) 蝉丸(せみまろ) 此哥はゆくものかへるものしれるものしらざるものしばらくわかれさまよひ生死(せうし)の関(せき)を思ひては出すしかれども法性(ほつせう)の都(みやこ)へいたらんには此関を思ひてはあひがたしと世の中をかんじてよみけるならし後撰(ごせん)ことはがきにあふさかの関に庵室(あんしつ)をつくりて住(すみ)はへるにゆきかふ人を見てとあり是や此とはあふ坂の関におちつく五もじ也表(おもて)は旅客(りよかく)の往(わう)来(らい)のさまにて裏(うら)は会者定離(えしやでうり)の心也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000008.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/8/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_011 和田(わだ)のはら八十島(やそしま)かけてこぎ出(いで)ぬと人(ひと)にはつげよあまのつり舟(ぶね) 参議篁(さんぎたかむら) 此哥古今(こきん)詞(ことば)書(かき)におきの国へながされける時舟にのりて出立とて京なるひとのもとにつかはしけるとあり心はまづわだの原(はら)といひいでたるさまあはれふかきにやわだのはらとは海原(うなばら)のことにて大かたの人だに海路(うなぢ)のたひにおもむくべきはかなしかるべきにましてや是は流人(るにん)となりおほくのしま〴〵を経てしらぬ浪(なみ)ちをわたる心ぼそさたとへがたくかへるつり舟あまの心なきものに此ありさまをつけてよとわびたるかなしさいはんやうな https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000008.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/8/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_012 天津風(あまつかぜ)くものかよひぢ吹(ふき)とぢよをとめの姿(すがた)しばしとゞめん 僧正遍昭(そうじやうへんぜう) 此哥の心は空(そら)ふく風のくものかよひぢふきとちよしからば乙女のすがたしばしとどめて見んとねがひたるさま也古今には五節(せち)のまひ姫(ひめ)を見てよめりとあれば俗(ぞく)の時の名(な)宗貞(むねさだ)とあるべきをこゝには定家わへんぜうとのせられたり此うた今のまひ姫をむかしの天女に見立てよめりされは舞(まひ)のなごりををしみて雲(くも)のかよひぢふきとぢよといへりしはしといひたるにてとゞめえぬ心きこへたり是まひひめに心をかくるにあらすまひのおもしろきによりてなり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000009.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/9/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_013 筑波(つくば)ねのみねよりおつる美(み)なの川(がは)恋(こひ)ぞつもりて渕(ふち)となりぬる 陽成院(やうせいいん) 此哥の心はいかなる大河(か)も水上はわづがなる苔(こけ)の下よりしただりおちあつまりてすへはそこしれぬ川となれり恋(こひ)の上にても見そめたるおもかげのほのかなりしも思ひつもりぬればしのびがたき心となりぬるよしのたとへ也つくば山みなの川みな常陸(ひたち)の名所にて此川の東(ひがし)はさくら川へおつるといへり此水つくばねよりまさごの下をくゞりてそれとも見へず一トわたりにながれてすへは川となれり此御哥は惣(そう)じて序哥(じよか)也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000009.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/9/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_014 陸奥(みちのく)のしのぶもぢずり誰(たれ)ゆゑにみだれそめにし我(われ)ならなくに 河原左大臣(かはらのさだいじん) 此哥の心はたれゆへにみだれそめしわが心は君(きみ)ゆへにこそみだれたれといへる義也おう州しのぶのこほりより出るころものあやのみだれたるにいひよそへしゆへしのぶといひあまりてみだれたりといへり古今題(だい)しらずの内の哥にて上二句はみたるゝといはんとての序(じよ)也古今にはみだれんと思ふわれならなくにといへり又曰奥(おう)州(しう)しのぶのこほりにて布(ぬの)にしのぶ草(くさ)をすりつけてもやうにするにそのもやうみだれたるものゆへみたるゝといはん為の序に用ひし也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000010.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/10/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_015 君(きみ)がため春(はる)の野(の)にいでゝわかなつむ我(わが)衣手(ころもで)に雪(ゆき)はふりつゝ 光孝天皇(くわうかうてんわう) 此哥は正月七日七種(しゆ)のわかなを人に給ひける時あそばし給ふとなり心は君(きみ)がため春(はる)の野(の)にいでゝわかなつむに余寒(よかん)はなはだしく雪(ゆき)の御(ぎよ)衣(い)にかゝりかんなんの時ながら人のためをおぼしめす御心入れありがたし此うた仁和(にんわ)のみかど親王(みこ)にておはしましける時に人にわかな給ひける時の御哥とあり仁和のみかどは光孝の御こと也わかな給ふとは賀(が)をたまふ義也此日わかなをふくすれば百びやうをのぞくこといふ事あればかくのごとくなし給ふ也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000010.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/10/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_016 立(たち)わかれいなばの山(やま)の峯(みね)におふるまつとしきかば今(いま)かへりこん 中納言行平(ちうなごんゆきひら) 此哥は行平みのゝ国を知行(ちげう)してかの国に下るほとに友(とも)なる人うまのはなむけにとて出たるときいつかへり給ふといへればかくよめりいなば山はみのゝ国の名所也たちわかれいなばといひみねにおふる松としきかばといひみな序哥(じよか)のてい也又此卿(けう)いなばの守なりしが任(にん)はてゝ都へのぼる時思ふ人によみてつかはせし共いへり哥の心はまつ人だにあらは今のまにもかへりこんなれども待(まつ)人はあらじとそこ心ンにふまへたる哥也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000011.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/11/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_017 千早(ちはや)ふる神代(かみよ)もきかずたつた川からくれなゐに水(みづ)くゝるとは 在原業平朝臣(ありはらのなりひらのあそん) 此哥ちはやふるとは神(かみ)といはん為の枕(まくら)ことば也たつた川にもみぢのちりうかびたるていのおもしろさ神代(かみよ)には妙(たへ)なることのみありといへばその神代にもいまだきかずからくれなゐのにしきに水をくゝるとはといへるていさへ也是はくゝり染(そめ)とて糸にてくゝりていろ〳〵にそめなしたる絹(きぬ)にたとへていへり又曰詞(ことは)がきに二条(でう)のきさきの春宮(とうぐう)のみやす所と申ける時にびやうぶにたつた川にもみぢながれたるかたをかきたりけるを題(だい)にてよめるとあり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000011.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/11/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_018 住(すみ)の江(え)のきしによるなみよるさへや夢(ゆめ)のかよひぢ人(ひと)めよぐらむ 藤原敏行朝臣(ふぢはらのとしゆきあそん) 此哥の心は住(すみ)の江のきしによる浪(なみ)はよるさへやといはん為の序(じよ)也よぐとはよくるといふこと也夜(よる)ゆめのかよひぢには人めをよくべきにもあらぬにそのゆめにさへ心にしのぶならひとてなほ人めをよくると見へて心のまゝにもならずさても〳〵となげきたるてい也高(たか)ききしにこそ浪のうちたらばゆめもさむべきことなれ是は南海(なんかい)也ことに住の江のきしはあらき浪もよせぬ所なるにわがゆめぢのちぎりのさまたげとなるはいかにといふ意(い)もふくめり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000012.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/12/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_019 難波(なには)がたみじかきあしのふしの間(ま)もあわで此世(このよ)をすぐしてよとや 伊勢(いせ) 此哥の心はあしをいはんとてなにはがたといひみじかきほどの節(ふし)の間(ま)と人のぬる間わつかなるによせていひあはで此よをすごせとやといふ此世(よ)もあしのふしの間のよをいひかけるたる也すこしのまもぬる夜(よ)なしにすぐせといふことかといへる也なにはかたとは大やうによくいひ出したり五もじに君臣(くんしん)ありこれは君(きみ)のかたの五もじ也又恋(こひ)にはしめ中をはりあり此哥はをはりの心也ゆゑに心は今までつもりし思ひをかぞへあげたる也かやうの哥をばおほよそに見ては曲(きよく)あるべからずと云々 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000012.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/12/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_020 わびぬれば今(いま)はたおなじなにはなる身(み)をつくしてもあはむとぞ思(おも)ふ 元良親王(もとよししんわう) 此哥の心今はたは今まさにと心得(こゝろえ)べしみをづくしは海(うみ)のふかきしるしに立る杭(くひ)也われもみをづくしのことく朝夕思ひわび袖(そで)をほすまのなくとも一トたびあひたらんには可(か)也此哥ことば書にこといできてのちに京(けう)ごくの御(み)やす所につかはしけるとあり是は宇田(うだ)の御門(みかどの御時此みやす所にちぎりてかよひけるがあらはれてのちにつかはしたる哥也事のいてきてとはくぜつわざはひのいできしことをいふ也又曰みをつくしてもは身(み)をはたしてもと云(いふ)義也それをみをづくしによせていへり命(いのち)にかけてあはんとなり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000013.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/13/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_021 今(いま)来(こ)んといひしばかりに長月(ながつき)のありあけの月(つき)をまち出(で)つるかな 素性法師(そせいほうし) 此哥の心は一ト夜(よ)の義(ぎ)にあらず初秋(はつあき)のころより今こんと云(いひ)しばかりのあることをさりともとまち〳〵てはや長月のころに至(いた)りありあけの月をまちいでつるかなといへりあはれふかし此哥有明(ありあけ)の月をまちでつるかなと云を顕照(けんせう)は一トよのことゝいへり定家(ていか)卿の心は又一つ也月のいくよをかさねしと初秋のころよりはや秋もくれ月もありあけになりたると也是他流(たりう)当(たう)流のけじめ也又長月は九月のこと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000013.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/13/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_022 吹(ふく)からに秋(あき)のくさきのしほるればむべ山風(やまかぜ)をあらしといふらん 文屋康秀(ぶんやのやすひで) 此哥の心はあき風の吹(ふく)からに草木(くさき)のしほれはてゆくにしたがひて思ふにげにも山風と書(かき)てあらしとよむもじは此時より思ひ合(あひ)たる也むべはげにも也是はこれさだの親王(みこ)の家見(いへみ)哥合(あはせ)の哥也とあり古今の序(じよ)にことばたくみなるさかひにいへり説々(せつ〳〵)の多(おほ)き哥也木ごとに花ぞさきにけるを木へんに毎の字(じ)をかくゆへ梅(うめ)の字の心といひ山かむりに風をかきてあらしの字の心といふ説(せつ)あり用ひがたし只(たゞ)あらき風と心得てよし https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000014.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/14/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_023 月見(つきみ)ればちゞにものこそかなしけれ我身(わがみ)ひとつの秋(あき)にはあらねど 大江千里(おほえのちさと) 此哥の心は月を見ればいろ〳〵の事ども思われてかぎりなきかなしさの身にまとひたるやうに思はるゝ也ちゞとは千々の字(じ)にてかず〳〵といふ義也わがみ一つはわれ〳〵一人の秋にてはなけれどわれ一人りがかなしきことのやうに思はるゝと也又曰日(ひ)は陽(やう)の気(き)なればむかふに心和(くわ)する也月は陰(いん)の気なれはうちながむるに心もすみあはれも次第(しだい)にすゝむものなりさればちゞにものこそかなしけれとかずかぎりもなくあはれふかきていなり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000014.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/14/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_024 このたびはぬさもとりあへず手向山(たむけやま)もみぢのにしき神(かみ)のまに〳〵 菅家(かんけ) 此哥は菅(かん)公(こう)手向山へ御(み)幸(ゆき)の時供奉(ぐぶ)にてよみ給ひし也心は此たびは御ともの事なればぬさもとりあへずよりて此山にある所のもみぢのにしきをそのまゝにぬさとしてたむけ奉るとなりぬさとは神(かみ)にさゝぐるへいはくのこと也神のまに〳〵とは神の心にまかせ奉るといふこと也詞書にしゆじやく院(いん)のならにおはしましける時に手むけ山にてよみけると有此たびは旅(たび)の字(じ)といふ義もあり又幣帛(へいはく)もむかしはにしきをもつてせしと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000015.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/15/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_025 名(な)にしおはゞあふさか山(やま)のさねかづら人(ひと)にしられでくるよしもがな 三條右大臣(さんでううだいじん) 此哥の心はあふさか山のあふといふ名におへるものならはやくそくをたかへずしてまことに来(く)るよしもかなといへる也さねはしんじつのこと也さねかづらは蔦(つだ)のるい也かづらといふよりくるとえんをとりたる也人にしられでとは人にしられぬやうにしのびてくるよしもがなとねがひたる也詞(ことば)書に女のもとにつかはしけるとありさてさねかづらは是を引とるにしげみあるものなればいづくよりくるとも見へぬもの也そのごとくわが思ふ人も世にしられずして来(こ)よかしと也がなは願(ねがひ)の詞也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000015.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/15/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_026 小倉山(をぐらやま)みねのもみぢば心(こゝろ)あらば今一(いまひと)たびの行幸(みゆき)またなん 貞信公(ていしんこう) 此哥は詞(ことば)書にてていじ院(いん)大井川に御幸(みゆき)ありて行幸(みゆき)もありぬべき所也とおほせ給ふに事のよしそうせんとて此哥をよめりと云々さて心は此卿供奉(ぐぶ)にて院(いん)のしかおほせられしかばとりあへず御ゆきはすでにありをぐら山のもみぢ有がたく思ふ心あらばとてもの事にちらずして今一トたびの行幸(みゆき)をまちつけよと也心なきものにむかひて心あらばといひたる皆(みな)わかの心ざしにてゆうなる情(ぜう)也又仙洞(せんとう)には御幸とかき天子(てんし)には行幸と書例(かくれい)也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000016.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/16/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_027 みかの原(はら)わきてながるゝいづみ川(がは)いつみきとてか恋(こひ)しかるらん 中納言兼輔(ちうなごんかねすけ) 此哥の心は水のわくごとく人をこふる心のかぎりはてなきをたとへていはんとていづみ川いつみきとてかとかさね詞(ことば)にいひながしたる也いつのほどに見きゝてかくこひしとは水のわくごとくに思ふらんとわれとわが心をあやしみたる也みかの原泉(いづみ)川みな山城(しろ)の名所なり新(しん)古今に題(だい)しらすとあり哥の心はあふてあはざる恋(こひ)と又いまだあはさるこひとの両やう也又わきてながるゝはいづみにえん有る字(じ)にていつみきといはん為ぞ是も又序(じよ)哥(か)也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000016.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/16/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_028 山里(やまさと)は冬(ふゆ)がさびしさまさりける人(ひと)めも草(くさ)もかれぬとおもへば 源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん) 此哥の心はおもてのまゝ也山里ながら春秋(はるあき)は花(はな)もみぢにたよりあるべきが冬はさう〳〵人めも草(くさ)もかれぬといへること也さびしさは山里のものといへども冬は又とりわけさびしさもまさるといひ人め草(くさ)ともにかれたるといふよせいかぎりなし人めのかるるといふは人めの遠(とほ)ざかりたる也詞書に冬の哥とてよめるとあり山は四時(し)さびしきものなり冬ぞのもじに心をつけ次に山里はの文字(もじ)に心をつくべしと三光院の御説(せつ)なり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000017.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/17/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_029 心(こころ)あてに折(をら)ばやをらん初霜(はつしも)のおきまどはせるしらぎくの花(はな) 凡河内躬恒(おほしかうちのみつね) 此哥の心はしら菊(きく)の花に霜(しも)のおきわたしたるはいづれがしもぞとまどひたる也心あてに折んよりほかなしとよみたり心あてはすいりやうのこと也此哥しらぎくの花をよめるとありさてをらばやをらんはかさね詞也をらばをりもやせめといふこと也いづれもあらましごと也菊をも霜をもともにあいしたる哥也はつしもの初(はつ)の字に力(ちから)を入れて見る哥也はつしもをもいまだ見ならはぬと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000017.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/17/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_030 有明(ありあけ)のつれなく見(み)えし別(わか)れよりあかつきばかりうきものはなし 壬生忠峯(みぶのたゞみね) 此哥の心は人のもとにかよひけれどもその人つれなくしてあはずほいなくかへるさまなり有あけの月はつれなくのこりて夜(よ)はあけぬるにあはでわかることのつらさ是ゟあかつきほど世にうきものはなしとひとへに思ひ入りたりこれはあふて実(じつ)なきこひ也扶桑葉(ふそうよう)林集(りんしふ)とて百帖(でう)ばかりあるものありさが天わう此かたのうたをあつめたる本也それにはあはずしてかへる恋(こひ)とあり他流(たりう)にてはあふてわかるゝこひ也心は両注(りやうちう)ともにあきらかなり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000018.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/18/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_031 朝(あさ)ぼらけありあけの月(つき)と見るまでによし野(の)のさとにふれるしら雪(ゆき) 坂上是則(さかのうへのこれのり) 此哥の心はあかつきがたみよしのゝ山のくさ木を見れば有明の月かげのごとくしろ〴〵とはつ雪(ゆき)のうすくふりたるてい也名所の初雪の題(だい)にて心はあきらかに見へたり此うたやまとの国にまかれる時雪のふりけるを見てよめると有さてあさぼらけは夜(よ)のあけ行(ゆく)ころにて朝且朝朗明且いづれもあさぼらけとよむなり〇季注に曰明方の月は影(かげ)うすくしてさすがに明白(めいはく)ならねば雪のうすくふりたるに見まがふもの也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000018.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/18/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_032 山河(やまがわ)に風(かぜ)のかけたるしがらみはながれもあへぬ紅葉(もみぢ)なりけり 春道列樹(はるみちのつらき) 此哥の心は山川に木の葉(は)をおほく風のふきかけたるがしがらみとなりてながれもあへぬてい也風のかけたるしがらみは何ものぞと見ればながれもあへぬもみぢ也けりと我(われ)ととひわれとこたへたる哥のさま也風のかけたるがめづらし此うたしがの山ごへにてよめるとあり此五もじ万葉(まんよう)に山から川とのことにいへる有その時は河の字(じ)をすむ也是は只河の字にごるべし又木のはの流(なが)れてせかれたるをしがらみといへりあへぬは敢の字を書ながれもはてぬといふ義なり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000019.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/19/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_033 久(ひさ)かたのひかりのどけき春(はる)の日(ひ)にしづ心(こゝろ)なくはなのちるらん 紀友則(きのとものり) 此哥の心は雨(あめ)風に花のちりはべるは申事なしかぜもふかでのどけかるにひとり花のしづかにもなくちることのうらめしきといへる也かくのどけき日に何事ぞ花はいそがはしくちるといふにてちるらんのはね字(じ)もきこへたる也詞書にさくらの花のちるをよめるとありある人為家卿(ためいへけう)に此心は人の心か花の心かとたづねしにいづれにてもしるべしとこたへられしと也此哥花ぞちりけるともあるべき所なるをちるらんといへるにてれいらくすることをふかくをしむ心とはなれり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000019.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/19/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_034 誰(たれ)をか裳(も)知(し)る人(ひと)にせむ高砂(たかさご)のまつもむかしの友(とも)ならなくに 藤原興風(ふじはらのおきかぜ) 此うたは題(だい)しらずの哥也心はわが身としおいてのちはいにしへよりさま〴〵になれにし人のあるひは此世にながらへたるもつゐとほざかりあるひはさきだちてとゞまらぬもありいろ〳〵になりてたゞひとりのこりて今は朋友(ほういう)の心しりたるもなきときとなれり只高(たか)さごの松こそいにしへより年(とし)尊きものなれと思ふに是も又わがむかしの友ならねばたれをかしる人にして物語(ものかたり)けんとうちなげきしてい也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000020.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/20/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_035 人(ひと)はいざこころも知(し)らずふるさとは花(はな)ぞむかしの香(か)に匂(にほ)ひける 紀貫之(きのつらゆき) 此哥の心は貫之はつせにまふでぬるたびごとにやどりける宿坊(しゆくぼう)にひさしくおとづれせざりければあるじうらみける時そこに有あふ梅(うめ)の花ををりてかくよめる也いざとは不知(しらず)と書り人はいざわがかはりなき心をもしらずさやうにうらみらるれども此梅の花ばかりはわがまごゝろをよくしりたると見へてむかしにかはらずよきにほいぞすなるとあるじのうらみをうちかへして貫之又うらみたる哥なるべし https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000020.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/20/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_036 夏(なつ)の夜(よ)はまだ宵(よひ)ながら明(あけ)ぬるを雲(くも)のいづこにつきやどるらむ 清原深養父(きよはらのふかやぶ) 此哥の心は夏(なつ)の夜(よ)はあけやすきものなるに月をめであはれむころはいとゞよのみじかさまで宵(よひ)の間(ま)と思ふほどにはやあけたるやうにおもはるゝに月は又くものいづこにやどりておるやらんいまだゆくさきまではえもゆかじといたく月ををしめるてい也詞(ことば)がきに月のおもしろかりける夜あかつきがたによめるとありまことにゆうにあはれなる哥也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000021.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/21/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_037 白露(しらつゆ)にかぜのふきしく秋(あき)の野(の)はつらぬきとめぬ玉(たま)ぞちりける 文屋朝康(ぶんやのあさやす) 此哥の心は秋(あき)の野(の)のえもいはれぬ千(ち)ぐさの花のうへにおきたる露(つゆ)を風の吹(ふき)しきりたればそのちりみだれたるさまさながらつらぬきとめざる玉のごとく也とよめりめであはれむ心のたへにしてことのはのゆうにまことなるもの也此風のふきしくはしきりにあらきかぜといふ義也此哥はべつに心なし当意(とうい)の風吹たるけいき也つらぬきとめぬとは玉は糸(いと)にてつらぬくものなればこれをぬきみだしたるかといふ心也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000021.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/21/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_038 忘(わす)らるゝ身(み)をばおもはず誓(ちかひ)てし人(ひと)の命(いのち)のをしくもあるかな 右近(うこん) 忘(わす)らるゝ身(み)をばおもはず誓(ちかひ)てし人(ひと)の命(いのち)のをしくもあるかな https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000022.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/22/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_039 忘(わす)らるゝ身(み)をばおもはず誓(ちかひ)てし人(ひと)の命(いのち)のをしくもあるかな 参議等(さんぎひとし) 此哥の心はあさぢふはをのをいはんためしのはらはしのぶといはんため也かやうにしのぶとは思へどもいかでかあまりてものを思ふよしの人めに見へはべるならんと心ならぬ思ひをいひのべたる也是も序哥(じよか)也あさぢふの小野(をの)は名所(めいしよ)にあらずさてしのべども〳〵あまりて人めにたつほど何とてかくは人のこひしきやらんと一チづにわれをたしなめたる心也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000022.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/22/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_040 忍(しの)ぶれどいろに出(いで)にけりわが恋(こひ)はものや思(おも)ふと人(ひと)のとふまで 平兼盛(たひらのかねもり) 此哥の心は人にしられじとしのぶ〳〵とすれどもしのびあまりてはやものおもひをするやと人もとふほどにいろに出けりとおどろきてよめるなり是はてんとくの哥(うた)合(あはせ)の哥也うたの義はあきらか也心をまもること城郭(ぜうくわく)のごとしといへりしかればずいぶんわれはかたくしのぶとおもひしを人のふしんするにつきてさほどまでに思ひよはれるよと心にうちなげきていへるさま尤あはれふかし〇季注(きちう)に曰いろにいでにけりといふにてさてもいろにいでけるよとおどろくていにきこえたり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000023.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/23/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_041 恋(こひ)すてふわが名(な)はまだき立(たち)にけり人知(ひとし)れずこそ思(おも)ひそめしが 壬生忠見(みぶのたゞみ) 此哥の心はこひすといふわが名ははやくたちける事よ人はよもしらじとしのびたるに我(われ)おぼへずそのいろにも見へけるかと也天徳(てんとく)の哥合に前(まへ)の哥とつがひたる哥也こひすてふはこひすといふと云こと也まだきははやき也〇祇注(ぎちう)におくの哥はすこしまさりたるよしをいへりまことにことばつかひ比(ひ)るいなきもの也詠哥(えいか)一體(いつたい)には前の哥をほめたり〇季吟(きゝん)の曰おもひそめしよりほどなくはや名の立ける事かな人しれずおもひそめしかども思ひのふかきゆゑにはやあらはれたる心聞(きこ)ゆ https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000023.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/23/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_042 契(ちぎり)きなかたみに袖(そで)をしぼりつゝ末(すゑ)のまつ山(やま)なみこさじとは 清原元輔(きよはらのもとすけ) 此哥すゑの松山は奥州(おうしう)の名所也〇君(きみ)をおきてあだし心をわれもたばすへの松山なみもこえなんといふ本哥(ほんか)よりよみたる也かたみはたがひのこと也此哥本(ほん)縁(えん)此山をなみのこへん時わがちぎりはかはらんといひしことありこと〴〵くみなそれにてよめり心はさてもあだにかくかはりやすきものをたがひに袖(そで)をしぼりつゝなみこさじとちぎりきなとすこしはぢしむるやうにいへる心也ちぎりきなはちぎりけりなといふをつめたる也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000024.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/24/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_043 逢見(あひみ)てののちの心(こゝろ)にくらぶれば昔(むかし)はものをおもはざりけり 中納言敦忠(ちうなごんあつたゞ) 此哥の心は君(きみ)を思ひそめてよりたゞ一トすちにあひ見まくほしとのみなけきつるが一ト夜(よ)あひてはわかれのあしたよりあはぬむかしとわかれてのちのうさをくらぶればなか〳〵むかしはものをもおもはぬやうにおもはれ猶(なほ)おもひのましたる心なり又はしのぶといふ事のくはゝるほとにあはさりしさきは物(もの)思ふまでもなかりしと也又思ひのきさしてはかたちをも見ずやと思ひおもかげをみては詞(ことば)を通(つう)ぜんと思ひ次第(しだい)に思ふことのつのりし也此哥やすくきこえたれどもその心ふかき哥也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000024.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/24/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_044 逢(あ)ふ事(こと)の絶(たゑ)てしなくはなか〳〵に人(ひと)をも身(み)をもうらみざらまし 中納言朝忠(ちうなごんあさたゞ) 此哥の心はあふといふことの世(よ)の中(なか)にたへてなきものならばなか〳〵によからんしからば人を恨(うらめ)しく思ふこともなく身をうらむることもなからんあひ見ると云(いふ)ことのあるゆへにてこそものをも思へとあらぬるに心をよせておもひあまりたるつらさをいひ出せり是(これ)はあふてあはざるこひの心にてよめり心をつくしきてのこと也世の中にたへてさくらのなかりせは人の心はといひたると同意(とうい)也なか〳〵といふを只(たゞ)はいらぬ也〇季吟(きゞん)曰(いはく)一義はつかにもあはましき本位(ほんい)なるをかくかれ〳〵になる思ひの切(せつ)なればなか〳〵始(はじめ)にあふことのたへてなくば恨(うらみ)もあらじと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000025.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/25/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_045 哀(あは)れともいふべき人(ひと)はおもほえで身(み)のいたづらになりぬべきかな 謙徳公(けんとくこう) 此哥の心はあはれともいふべき人はうつゝなくかはりはてぬればいふにたらすわきにも人の知りてあはれむものゝあるべきともおもほへず只(たゞ)わが身(み)のみいたづらになりはつべききてはくちをしき身のはてかなとよめる哥也詞書(ことばがき)にものいひける女の後(のち)につれなくなり侍(はべ)りてさらにあはず侍りければとあり此いふべき人はおもほえでとはたがいの他(た)人をさしていへりわが思ふあひてをばいかにたらざる事なるべしまた曰おもほえでは覚(おぼへ)ずして也身のいたづらにはわがみむなしく死(し)をいふ也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000025.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/25/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_046 由良(ゆら)のとをわたるふな人(びと)かぢをたえ行衛(ゆくゑ)もしらぬ恋(こひ)のみちかな 曽根好忠(そねのよしたゞ) 此哥の心はわがこひぢのいひよるべきたよりもなけれとさながらに思ひすてられずつもりつもれる思ひはゆくゑもしられずゆらのとをわたる船(ふな)人のかぢをたちたるがごとしとたとへていへる也由良(ゆら)の門(と)は紀州(きしう)なり玄旨(げんし)の曰此ゆらのとはなみあらき所なるべし心は大海(たいかい)をわたる舟(ふね)のかぢなからんはたよりをうしなふへきことなりそのふねのごとくわがこひぢのたのむたよりなくゆくゑもしらぬよしなり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000026.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/26/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_047 八重葎(やへむぐら)しげれるやどのさびしきに人(ひと)こそ見(み)えね秋(あき)は来(き)にけり 惠慶法師(えけうほうし) 此哥の心はやへむぐらは草(くさ)の名也そのやへむぐらのしげれる宿(やど)ながら秋はかならずとひくれども人はたへてきたらすと也むぐらのやどはすべて秋(あき)のもの也〇宗祇(そうぎ)曰心はあきらかにきこへはべれど往古(わうこ)とほるのおとゞのさかへも夢(ゆめ)のやうにてむかしわすれぬ秋のみかへる心をあはれとうちことわりたるさまたぐひなくやよく〳〵かはらの院(いん)のむかしを思ひつゞけて此哥をば見侍るべきとぞ〇季注むぐらのやどのさびしきに人こそとはざらめあまつさへ秋きにけりと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000026.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/26/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_048 風(かぜ)をいたみ岩(いは)うつなみのおのれのみくだけてものを思(おも)ふころかな 源重之(みなもとのしげゆき) 此哥の心は万(まん)葉(よう)の哥に〇山ぶしのこしにつけたるほらのかひおづ〳〵として岩(いは)にあてゝくだけてものを思ふころかなといふ本哥(ほんか)をとれりさればつれなき人はいはほのごとくいくたびなみの思ひをかくれどもちり〴〵にくだくる也われつれなき人を見てこひせんとにはなけれどもおのづから物を思ふと也〇季注(きちう)に曰一義おのれのみは世間(せけん)にわれはかり心肝(きも)をくだきてものおもふと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000027.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/27/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_049 御垣守衛士(みかきもりゑじ)のたく火(ひ)のよるはもえて昼(ひる)はきえつゝ物(もの)をこそおもへ 大中臣能宣朝臣(おほなかとみよしのふあそん) 此哥の心はみかきもりとは大内にてかゞり火をたくやく人也衛士とはゑもんづかさ也このゑじがたく火も夜(よる)ばかりもへて思ひくるしきさま也ゑじのたく火のやうによるはもへてと字(じ)をくはへて心得べし〇玄旨(げんし)の曰衛士(えじ)は左衛門(さへもん)の下につかふ士(さむらひ)也左衛門は外衛(ぐわいゑい)のみかきを守る也心はわれ人めをよくるゆへにひるは火のきゆるやうなれ共よるは又もゆると也〇宗祇の曰ひるはもゆる思ひをやすましたるさま也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000027.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/27/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_050 君(きみ)がためをしからざりし命(いのち)さへながくもがなと思(おも)ひけるかな 藤原義孝(ふぢはらのよしたか) 此哥は後朝(こうてう)の哥也あはぬほどはいのちにもかへてとおもひしに命(いのち)あればこそかくはあひたるなれ今はなほいのちをしきよし也もつともあはれふかかるべし心は大かたにあきらかなれども思ひけるかなといへる詞に見所あり人を思ふ心のせつなるまゝにわが心のいつしかながくもおもひ侍(はべ)ることもといふ所をよく見はべるへき哥也とぞ此かなをばかへるかなといふ也又ぬるかなといふは過去(くわこ)のこゝろありけるかなは当(たう)意(い)の心也又ながくもがなはながくもあれかしなとねがふことば也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000028.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/28/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_051 斯(かく)とだにえやはいぶきのさしもぐささしも知(し)らじな燃(もゆ)るおもひを 藤原実方朝臣(ふぢはらのさねかたあそん) 此哥かくとたにえやはいぶきとはわが思ひかくとばかりえも云出(いひいで)しえぬといふこと也云(いふ)をいぶきといひかけたり又いふきのさしもぐさは江州(ごうしう)いふき山に生(おふ)るよもぎのことなりさしもといはんためにいへり心はわがおもひさしもくさのもゆるがごとくなるもかくとばかりえいはぬゆへにその人はさしもしらじなしらせたしとひたすらに思ひつゞくるよし也〇季注(きちう)おのが思ひに身をこかしつゝといひ又身をややくらんといふ哥によりてよめるなり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000028.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/28/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_052 明(あけ)ぬればくるゝ物(もの)とはしりながらなほ恨(うら)めしき朝(あさ)ぼらけかな 藤原実方朝臣(ふぢはらのさねかたあそん) 此哥は後(のち)のあしたの哥也夜(よ)のあけては又暮(くれ)はべるべきはしりたれども人にあふてわかれのつらさに夜のはやくあけぬる此あさほらけかうらめしきと也後拾遺(ごしうい)第十二恋(こひ)詞書に女のもとより雪のふり侍る日かへりてつかはしけるとありて哥二首ならびて入りける〇かへるさの道やはかはるかはらねどとくるにまどふけさのあはゆき今一首(しゆ)は此あけぬればの哥也しりながらといふにふかき心あるにや https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000029.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/29/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_053 歎(なげ)きつゝひとりぬるよの明(あく)るまはいかに久(ひさ)しき物(もの)とかはしる 右大将道綱母(うだいしやうみちつなのはゝ) 此哥の心は此御もとへある人かよはれしに門(かど)の戸(と)おそくあけしとてうらみられしかばかくよみていだしけるそなたにはなれぬる人二人りありてこなたへはまれにこそかよひき給へさればわらはがまちわびてうちなげきつゝひとりねのとこに夜(よ)のあくるをまつ間(ま)の久(ひさ)しきをばいかにかなしきと思ひ給ふや戸をあくるまのおそきをだにうらみ給ふはおろかにこそといへる也後(ご)しうゐ集(しふ)第十四恋(こひの)四詞がきに入道(にうどう)摂政(せつせう)まかりたりけるに門をおそくあけければうらみけるによみて出しけると有 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000029.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/29/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_054 忘(わす)れじの行末(ゆくすゑ)まではかたければけふを限(かぎ)りの命(いのち)ともがな 儀同三司母(ぎどうさんしのはゝ) 此哥の心はある人こなたへかよひけるにその心さだまりがたく見ゆれば今かくうれしくちぎれるうちわがいのちもたへよかしあかれて後(のち)くゆるともかひなしと也新古今(しんこきん)しふ恋の部の巻頭(くわんとう)にあり詞書に中の関白(くわんばく)かよひそめはべるころと有踏雪(たうせつ)の曰哥の心はたとへいくとせをふるともかはらじとはいふ共世けんのありさま変(へん)じやすきならひなれば今わすれじとは思ひ給ふべけれとその心をゆくすゑまでたもたん事はいと〳〵かたきものなれはわすられたる時々そのおもひをせんよりはと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000030.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/30/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_055 瀧(たき)の音(おと)はたえて久(ひさ)しくなりぬれど名(な)こそ流(なが)れてなほ聞(きこ)えけれ 大納言公任(だいなごんきんたふ) 此哥の心はむかしさがの大学寺(だいがくじ)に瀧殿(たきどの)とて瀧の侍(はべ)りけるを見にまかりけるにその瀧ははやたへはべりたれども名のみはなほ高(たか)く世にもながれてきこへけると也大学寺(だいがくじ)もとは学問(がくもん)せし所也後(のち)に覚(かく)の字にあらたむると云々〇季注にきゝつたふる人もなきあとはおのづからあはれもとゞまらずうづもれぬ名ののこるにてむかしのしのばれぬる感(かん)情(せう)をもよほすこと一トしほなるものなり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000030.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/30/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_056 あらざらむこの世(よ)の外(ほか)のおもひでに今(いま)ひとたびのあふこともがな 和泉式部(いづみしきぶ) 此哥は式部(しきぶ)わづらひけるときしる人のもとへよみておくりし也あらざらんは存(ぞん)命(めい)おぼつかなき也此世の外(ほか)とは来(らい)世(せ)をいふおもひではたのしみぐさに思ひ出(いで)ること也心はわらは今かくわづらひてとてもながらへはつべうも思はれねばせめては此よのほかなるほとけの国へゆきてをり〳〵思ひでゝたのしみぐさとなさんために今一トたびあふこともあれかしなとねがひたる也此の女房(ぼう)いづみの守道貞(みちさた)がつまとなるよつていづみ式部といふ詞書にこゝち例(れい)ならずはべりける時人のもとにつかはしけると有 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000031.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/31/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_057 めぐりあひて見しやそれともわかぬまに雲(くも)がくれにし夜半(よは)のつきかな 紫式部(むらさきしきぶ) 此哥の心はたびだちてはる〴〵ありてかへりきたりけるに道にて我(わが)見なれしとものいまだそれとも見もわかぬまに見うしなひしをくもがくれせし月によそへよめる也玄旨法印(げんしほういん)の抄(せう)に曰人にあふてやがてわかれたるさまさながらながむる月のにはかにくもがくれせしごとくなりとよめり人を月にたとへていへることばづかひさらにぼんりよのおよぶ所にあらず https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000031.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/31/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_058 有馬山(ありまやま)ゐなのさゝはら風(かぜ)ふけばいでそよ人(ひと)を忘(わす)れやはする 大弐三位(だいにのさんみ) 此うたことばがきにかれ〴〵なる男(おとこ)のおぼつかなくなんといひたりけるによめるとありありま山はいなのさゝはらをいはんためのまくら詞なり風ふけばはいでそよといはんためにいへり是序哥(じよか)也さて心はちぎりける男のはやわれをばわすれつらんなどいひける時たとひそなたはつれなくなれるともそれにならひていでやそれよとはやくも人をわすれやはするさるまことなきものにはあらじとこたへし哥也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000032.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/32/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_059 やすらはで寝(ね)なましものをさよふけてかたぶくまでの月(つき)をみしかな 赤染衛門(あかぞめゑもん) 此哥やすらふは心おちゐる也さればやすらはではおちゐすして也さていひかはせし人のこよひ来(く)べしとやくしたればわが心やすらひてかならず来(く)べしと心あてにしてやがて日のくれたれどいねもやらで今やきたると月をながめながらまてども〳〵おとづれせずはや夜はふけて月もいたくかたふきけれどもその人はつゐにきたらずかほどならばこゝろやすらはではやくねましものをと後悔(こうくわい)してよめる也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000032.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/32/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_060 大江山(おほえやま)生野(いくの)のみちのとほけれは【別刷は「ば」】まだふみも見ずあまのはしだて 小式部内侍(こしきぶのないし) 此哥小式部(こしきぶ)あはいづみ式部がむすめ也大江山いく野(のゝ)みなはしだての道也はしだては丹後(たんご)の国に有まだふみも見ずとはまだゆきて見ぬといふ義也又母のふみの義もふくめり此のころ母はわかれてたんごの国にありしゆへ也是は小しきぶが哥をよくよめるは母がよみてつかはすなどゝうたがふ人ありて小しきぶが袖(そで)をひかへ哥合も哥ははやはし立よりきたれるやと云ける時とりあへず此哥をよみしと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000033.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/33/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_061 いにしへの奈良(なら)のみやこの八重(やへ)ざくらけふ九重(こゝのへ)ににほひぬるかな 伊勢大輔(いせのおほすけ) 此哥は一条(でう)の院(いん)の御時にならの八重桜(やへざくら)を人の来りけるに此女ぼう御(み)まへにはべりければその花を給はりて哥よめとおほせられければよめると云々さて心はふるき都(みやこ)のさくら花のいろ香(か)も今このみやこにまゐりては一トしほまさりて八重桜が九重(こゝのへ)ににほひはべると賞(せう)くわんしたる当座(とうざ)のことばまことにめでたし内裡(だいり)を九重(こゝのへ)といふにゆへさくらの色(いろ)香(か)をかね又今日此所(けふここ)の辺(へ)といふ意(い)もふくみていへり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000033.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/33/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_062 夜(よ)をこめてとりのそら音(ね)ははかるとも世(よ)にあふさかの関(せき)はゆるさじ 清少納言(せいしようなごん) 此哥の心はある人かよひ来(き)て夜(よ)ふかにかへらんとしけるゆへいまだ関(せき)の戸をあけまじければしづかにかへり給へととゞめし也とりのそらねとはむかしもろこしにて孟嘗君(まうせうくん)といひし人いくさにうちまけくわんこく関(くわん)といふせきぢをとほらんとしけるに夜(よ)ふかくして関(せき)の戸を明(あけ)ず臣下(しんか)のけいめいといふものよく鶏(にはとり)のまねしければ夜あけたりとて関をとほしぬそれはともあれ今此あふさかの関をばとりのまねしてたばかりたり共なか〳〵にとほすまじきと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000034.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/34/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_063 今(いま)はたゞおもひたえなんとばかりを人(ひと)づてならでいふよしもがな 左京大夫通雅(うきやうだいぶみちまさ) 此哥の心はせつなる恋(こひ)なりたま〳〵いひよることも人づてばかりにて心にまかせずたとへ此まゝ恋(こひ)しぬるともせめてじき〳〵にあふて心のたけもいひもせばうらみはあらじ今はたゞ思ひつのりていのちもたえはてなんとうちかこちたる也詞書に伊勢斎(いせいつき)宮わたりよりまかりのぼりて侍りける人にしのびてかよひはべりける事をおほやけもきこしめしてまもり女(め)なんどつけさせ給ひてしのびにもかよはずなりにければよみはべりけるとあり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000034.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/34/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_064 朝(あさ)ぼらけうぢの川霧(かはぎり)たえ〴〵にあらはれわたる瀬々(せぜ)の網代木(あじろぎ) 権中納言定頼(ごんちうなごんさだより) 此哥の心は題(だい)は川辺(かはべ)の眺望(てうぼう)なりあさまだきにうぢの川ぎりのたへ〴〵なるひまよりあじろ木のほの見(み)へはべるがおもしろきと也千載(せんざい)しふ第六冬(ふゆ)の部(ぶ)詞書に宇治(うぢ)にまかりて侍りける時によめるとあり人丸の哥に〇ものゝふの八十(やそ)うぢ川のあじろ木にいざよふなみのゆくへしらずもといふによりてよめりあじろ木は川の瀬(せ)にくゐをうちて魚(うを)をとるしかけの木をいふ也たへ〴〵は霧(きり)の絶(たへ)つたへずするをいふ也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000035.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/35/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_065 恨(うら)みわびほさぬ袖(そで)だにあるものを恋(こひ)にくちなん名(な)こそおしけれ 相模(さがみ) 此哥の心はうらみわびてなみだにかはかぬ袖(そで)のくつるさへ有るに恋(こひ)ゆへにむなしく下さん名(な)ををしみたる也〇玄旨(げんし)の曰こひにくちなん名こそをしけれとはもろ共にあひ思ふこひぢならば名にたゝんこともせめてなるべきものをといふ心也〇季注に曰恨(うら)みわぶるはせつなるならひなりわかるゝなみだの隙(ひま)なく袖(そで)のくつるはことに思ひふかきを猶(なほ)又名までもくちなんこといよ〳〵身(み)にあまりたるなげきなるべし https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000035.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/35/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_066 諸(もろ)ともにあはれとおもへ山桜(やまざくら)花(はな)よりほかにしる人(ひと)もなし 前大僧正行尊(さきのだいそうじやうぎやうぞん) 此うたの心は此僧正(そうぜう)大みねへ入りしとき此山のありさま人跡(じんせき)とてはたへてなきのみならす草木(さうもく)までも見なれず心ぼそきに只(たゞ)さくらのさきたるもとに立より此花よりほかしるものはなきに花も又われよりほかにめづる人はあるまじさすれば花もわれももろともにあはれと思ふよりほかなしとよめるなりかゝるやごとなき身にて此の深山(みやま)に入りてめづらかにさくらのはなを見ける時のさまをよく〳〵思ひ入て見べき哥也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000036.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/36/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_067 春(はる)の夜(よ)のゆめばかりなる手枕(たまくら)にかひなくたゝん名(な)こそをしけれ 周防内侍(すはうのないし) 此哥詞(ことば)がきに二月ばかりの月のあかき夜(よ)二でうの院(いん)にて人々あまた居(ゐ)あかして侍りけるにすはうの内(ない)侍(し)より臥(ふし)て枕(まくら)もがなとしのびやかにいふをきゝて大納言忠家(たゞいへ)これをまくらにとてかひなをみすの下より入れて侍りければよみはべりけるとあり心はみじかき春(はる)の夜(よ)のゆめのまばかりの手(た)まくらをしてそのかひもなくいたづらにうき名のたゝんはくちをしきわざ也ゆへにその手(て)はまくらになしがたしこと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000036.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/36/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_068 心(こゝろ)にもあらでうき世(よ)にながらへば恋(こひ)しかるべき夜半(よは)の月(つき)かな 三條院(さんでうのゐん) 此哥は御ふれいたゞならざりし時御くらゐをゆづり玉はんとおぼしめし御(み)心ならずもしながらへさせ給はゞこの秋の大内の月おぼしめし出させ給ふべきといへる御哥也〇季注に曰ほんいにもあらでながらへば見なれし金殿(きんでん)玉楼(ぎよくろう)の月のいかばかりこひしかるべきと也よはの月かなとあればとて月のみにかぎりてみるべからずむかしをしのび給ふ事おほかるべし https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000037.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/37/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_069 嵐(あらし)ふく三室(みむろ)の山(やま)のもみぢ葉(ば)はたつたの川(かは)の錦(にしき)なりけり 能因法師(のういんほうし) 此哥の心はみむろの山のもみぢをあらしのふきちらしたるをあなかちに興(きやう)なしと思ふべからずおちたるもみぢは見る〳〵たつた川のにしきとなりてなほおもしろきと也此哥かくれたる所なしたゞ時(じ)節(せつ)の景気(けいき)と所のさまとを思ひあはせて見はべるべしかくあり〳〵とよみいだす事その身の粉骨(ふんこつ)なり〇季注に曰三室よりちりおちて下はたつた川也あらしにちる三室の山のもみぢはすなはちたつた川のにしきとなれり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000037.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/37/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_070 寂(さび)しさにやどをたち出(いで)て眺(ながむ)ればいづこもおなじ秋(あき)のゆふぐれ 良暹法師(りやうぜんほうし) 此哥の心は秋の夕ぐれのものさびしさ我(わが)やどのみかと立いでてながむればいづくも同(おな)じさま也と人のうへまでもはかりしりたるてい也玄旨(げんし)の曰心は大かた明らか也なほいづくもおなじといふに心あるべしわがやどのたへがたきまでさびしきと思ひわびていづくにもゆかばやとたちいでゝうちながむればいづくも又わが心の外(ほか)の事は侍らずと也〇季注さびしさのやるかたありやと宿(やど)立いでゝも秋(あき)より外のやどもなければはなはだかたき心見へたり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000038.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/38/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_071 夕(ゆふ)ざれば門田(かどた)の稲葉(いなば)おとづれてあしのまろ家(や)に秋風(あきかぜ)ぞふく 大納言経信(だいなごんつねのぶ) 此哥の心はゆふべになれば秋かぜのほのかにたちて門田の稲(いな)ばをふきなびかしたるが秋のいたるにしたがつてつよくおとづれあしの丸(まる)やにすさまじく夕べ〳〵に吹(ふき)つける時のきたれるをいひのべたり〇玄旨(けんし)法印(ほういん)の曰あしの丸やとはさながら芦(あし)ばかりにて作(つく)れるをいふ也その門(かど)田のいなばに夕ぐれの秋かぜそよ〳〵とふくぞときゝもあへずやがてあしのまろやにふききたるふぜいをもつての心なり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000038.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/38/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_072 音(おと)にきくたかしの濱(はま)のあだなみにかけじや袖(そで)の濡(ぬれ)もこそすれ 祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんわうけのきい) 此哥の心はたかしのはま名所也あだなみはあだなる人とはおとにきくも名だかにといふによそへたる也そのあだなみをかけたらばこなたの袖(そで)はぬれてのみあらんされども一たんちぎりし人と思はゞあだなる人なりともさすがすてられまじきほどにはじめよりさやうの人には否(いな)といふかへしの哥也袖のぬるゝとはなみだのこと也おとにきくといふよりぬれもこそすれまでみなおもてはなみのえん也心ことばかけたる所なくよくいひあふせたるゝ哥也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000039.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/39/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_073 高(たか)さごの尾上(おのへ)のさくら咲(さき)にけり外山(とやま)の霞(かすみ)たゝずもあらなむ 前中納言匡房(さきのちうなごんまさふさ) 此哥の心たかさごは名所又山のそう名にて高(こう)山也をのへは山の半(はん)ふくなりとやまは門山(とやま)にて山の口もと也花のさかぬほどの山もかずみのみねにかゝりたるもおもしろし花さきては霞(かすみ)は無用(むよう)のこと也山まへにはたゝずしてあらまほしといへり〇玄旨の曰此のたかさごは山のそう名(めう)也名所にあらす心はあきらかにて正風体(せうふうてい)の哥也只詞づかひさはやかにたけ有る哥也〇季涯に咲(さき)にけりといふにて新(あらた)に桜(さくら)を見て興(けう)じたる心有 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000039.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/39/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_074 憂(う)かりける人(ひと)のはつをの山(やま)おろしはげしかれとはいのらぬものを 源俊頼朝臣(みなもとのとしよりのあそん) 此哥の心はわが思ふ人にいかにもしてあふよしもがなとはつせのくわんおんへいのりけれどもなほそのひとのつれなきことあらしのごとくはげしくてそのかひなしかくあれとていのりはせざる物(もの)をといへる也詞書に権(ごん)中納言俊忠(としたゞ)のいへにて恋(こひ)の哥十首(しゆ)よみ侍りける時いのれどもあはざる恋といへる心をよめりとあり〇定家(ていか)卿の近代秀(きんだいしう)歌にも此哥を見れは心ふかくよめり心にまかせまなぶともいひつゞけがたくまことにおよぶまじきすがた也とあり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000040.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/40/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_075 契(ちぎり)りおきしさせもが露(つゆ)を命(いのち)にてあはれことしの秋(あき)もいぬめり 藤原元俊(ふじわらのもととし) 此哥はある僧(そう)の基(もと)俊(とし)をたのみてならのゆゐまゑの講師(かうし)をのぞみけるにもれければもと俊いかゞと法性(ほうせう)寺(じ)どのへうらみ申されければしめぢがはらとこたへらるこれはたゞたのめしめちが原(はら)の哥の心也しかるに又此秋ももれければもと俊させもが露(つゆ)を命(いのち)はかなきことによせかなしや又此秋も此まゝにてすぐることよとうらみ申されたる哥也ちぎりおきしはやくそくしておきし也させもはさしもぐさの事也秋もいぬめりは秋もかへりゆくべしといへる也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000040.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/40/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_076 和田(わだ)のはらこぎ出(いで)【別刷はルビなし】て見(み)ればひさかたの雲井(くもゐ)にまがふおきつしらなみ 法性寺入道前関白太政大臣(ほうしやうじのにうどうさきのくわんばくだいじやうだいじん) 此哥の心はわだのはらは海(うみ)の惣名(そうめう)也海上(かいせう)はるかにふねをこぎ出てなかむればまことに雲井(くもゐ)と浪(なみ)と一つになりてはる〴〵と見わたされたるなり久かたはくもゐをいはん為の枕詞(まくらことば)也海(うみ)のかぎりなきていをよくけいきをうかべていひ出したる哥也よせいかぎりなし詞書に新院(しんいん)くらゐにをはします時海上遠望(えんぼう)といふことをよませ給ひけるによめるとあり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000041.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/41/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_077 瀬(せ)をはやみ岩(いは)にせかるゝ瀧川(たきがわ)のわれても末(すゑ)に逢(あは)んとぞおもふ 崇徳院(しゆとくゐん) 此哥の心ははやきたき川の瀬(せ)の岩(いは)にせかれて左(さ)右(いう)へわかれたる水もその岩もとをすぐれば又ふたたびあふもの也きみとはがこひ中もそのごとく一たんへだてありて中のわれたりとも心だにかはらずは又すゑにむつましくあふことのあらんと思ふぞと也われてもはわりなくといふにおなじ〇季注に曰岩にせかるゝといひてあはぬ心をのべわれてもといひてぜひあはんとおもふ心をのへたり海上 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000041.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/41/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_078 淡路島(あはぢしま)かよふちどりのなく声(こゑ)に幾夜(いくよ)ねざめぬすまのせきもり 源兼昌(みなもとのかねまさ) 此哥の心はさびしきすまのうらに旅居(たびゐ)してねざめのちどりをきゝてたへがたかりしにつけてかやうの所のせきもり等(ら)はいくよねざめしてちどりのこゑをきゝてたへわびぬらんとわがたびゐのかりねよりつねに住(すみ)なれたるせきもりのつらさを思ひやりたる哥也すまのうらは源氏(げんじ)ものがたりにも海士(あま)のいへだにもまれになんと書(かけ)りわが一とよのたびねさへかくのごとくなる関(せき)守(もり)の心はさこそと也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000042.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/42/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_079 秋(あき)かぜにたなびく雲(くも)のたえまよりもれ出(いづ)る月(つき)の影(かげ)のさやけさ 左京大夫顯輔(さきやうのだいぶあきすけ) 此哥の心は秋風の雲(くも)をふきなひけててる月のかくれたるがをり〳〵そのくものひまより月かげのさしいでたるはせいてんのけしきよりも一としほあきらかなるやうに思はるゝと也此うたおもしろき所なきやうなれどもじつにさるものにてありのまゝにうちいだせし所心ことばゆうにして又よせいもある哥なり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000042.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/42/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_080 長(なが)からんこゝろもしらずくろかみの乱(みだ)れてけさは物(もの)をこそおもへ 待賢門院堀川(たいけんもんゐんのほりかは) この哥はあふてのちのあしたその人につかはしたるなりながゝらんとはくろかみのえんにてけさわかれて又いつをかまたんといふ事によそへてよみたる也くろかみといふよりみだれてものを思ふといひたる也ながゝらんは人の心をさしていひみだれてはわが心をさしていひみだれてはわが心なりさそながからん心もしらずとはゆくすゑかけてちぎりしことも人の心はかはりやすきならひなればすゑはいかゞあらんもしらずけさのわかれのつらさを思ひみだれはべるかしといへる也〇季注に曰今朝(けさ)の字(じ)後朝(こうてう)の心あきらかなり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000043.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/43/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_081 ほとゝぎすなきつるかたをながむればたゞ有明(ありあけ)の月(つき)ぞのこれる 後徳大寺左大臣(ごとくだいしさだいじん) 此哥の心はほとゝぎすをまつころいく夜(よ)かつれなくすぎつるにやうやくにして一とこゑをゆめかとばかりきゝもあへずそのゆくべきかたのそらをながめしたへばたゞありあけの月のみありてほとゝぎすははやかげもなしといへりほとゝぎすの哥はたくみなるもの多(おほ)かれどもこれは只微細(びさい)にいはずしかも心をつくしたる所よせいかぎりなくこそ https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000043.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/43/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_082 思(おも)ひわびさても命(いのち)はあるものをうきにたえぬは涙(なみだ)なりけり 道因法師(だういんほふし) 此哥の心は思ひわびとはもの思ひのきはまり〳〵たる時なりさりともと思ふ人はつひにつれなくなりはててわれひとり思ひつめむねくるしきことかぎりもなしそれにてもなほ命(いのち)はつゝがなしながらへてだにあるならば又おもひをとぐる折(をり)もあるべしとわれはよくあきらめても只ものうきにつきてかんにんせぬものはなみだにてとゞめてもとゝまらずかくこぼるゝことよといへり〇季注に思ひわびさやうにてだにも命は有をなみだのみうきにかんにんならざるかと諫言(かんげん)したるてい有か https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000044.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/44/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_083 世(よ)の中(なか)よみちこそなけれ思(おも)ひいる山(やま)の奥(おく)にも鹿(しか)ぞなくなる 皇太后宮大夫俊成(くわうたいこうぐうのたいふしゆんぜい) 世(よ)の中(なか)よみちこそなけれ思(おも)ひいる山(やま)の奥(おく)にも鹿(しか)ぞなくなる https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000044.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/44/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_084 ながらへばまた此(この)ごろやしのばれんうしと見(み)し世(よ)そ今(いま)は恋(こひ)しき 藤原清輔朝臣(ふぢはらのきよすけあそん) 此哥の心は此すへながくながらへなばものうしと思ふけふ此ごろの事も又やしのびはべらんうしかなしといひしすぎたし世を今はしたふにつけてなほゆくすゑの事もおもひやらるゝぞと何事もすへ〴〵おとろへゆきてむかしににぬといふうらみ也〇玄旨の曰此哥の心は明(あき)らか也しだい〳〵にむかしを思ふほどに今のうしとおもふ時代(じだい)をも是よりのちにはなほしのばんするかと万人の心にくわんずる哥ぞと也只世の中の人はたのむまじきゆくすへをたのむかつね也 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000045.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/45/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_085 夜(よ)もすがらもの思(おも)ふころは明(あけ)やらで閨(ねや)のひまさへつれなかりけり 俊惠法師(しゆんゑほふし) 此哥の心はいもねられずして物思ふ夜(よ)はせめて夜のはやくあけよかしと思へどなほあやにくにながくしてねやのひまさへつれなくてまてども〳〵白(しら)まぬと也宗祇(そうぎ)の曰ねやのひまさへといへる詞めづらし思ひのせつなる所も見へ侍(はべ)るにやうらむまじきものをうらみなつかしかるまじきものをそのおもかげにする事こひぢのならひ也ねやのひまさへとうちなげきたる所をよく〳〵おもふべしと云々 https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000045.tif/1400,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/45/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
nijl_sugata_086 歎(なげ)けとて月(つき)やはものをおもはするかこち顔(がほ)なる我(わが)なみだかな 西行法師(さいぎやうほふし) 此哥の心はおよそ人のものおもひをするはわれから也人のさすることにもあらずひるはまぎれてくらしもすれどよる月にむかひてはいよ〳〵心すみてもの思ひのまさるを月のおもはするやうにおぼえてうらみがほになみださへこぼるゝ事よと也これわがおろかなるをさすがに思ひさつしていへりやはといふ詞に心をつくべしかこつは所によりてこゝろかはれりこゝはうらむ心もつぱらなり https://kotenseki.nijl.ac.jp/api/iiif/200006206/v4/image/110_0149/00000003/00000046.tif/4600,600,3600,4800/full/0/default.jpg https://honkoku.org/app/#/transcription/67301E559594A0F83776112F9423BB6A/46/ http://linkdata.org/resource/rdf1s6836i#nijl_sugata
* Row count is limited to 100.